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札幌高等裁判所 昭和57年(く)6号 決定 1982年2月26日

少年 R・D(昭三八・一二・一二生)

主文

原決定を取り消す。

本件を札幌家庭裁判所岩見沢支部へ差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、少年が提出した抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、原決定がした処分は重すぎて著しく不当である、というのである。

関係記録を精査し当審における事実取調の結果を合わせて検討すると、本件非行は、少年が、暴力団幹部の成人ら三名と共謀のうえ、原決定記載の自動車修理会社から金員を喝取しようと企て、タイヤの納品遅延に因縁をつけ同社○○支店長らを脅迫して金員の支払を要求したが、被害者が警察に通報したためその目的を遂げなかつたという事案であるが、少年は、昭和五四年三月夕張市内の中学校を卒業し、以来同市や札幌市で各種の職についたものの、忍耐心に乏しく短期間で転々と職を変える不安定な生活を続け、この間一時期有機溶剤を吸入する非行に浸り、その件について昭和五五年七月二一日家庭裁判所で不処分決定を受けたこと、しかしその後も職場に落ちつかず、また失職して無為にすごすことも多くなり、そのような中で友人に勧められてやくざ世界にあこがれ、昭和五六年七月末ころ友人を頼つて単身帯広市へ赴き、同地の暴力団○○会○○組に加入し、同組々長A方で生活するようになつて、やくざの行動様式や価値感になじんでいること、本件は暴力団特有の粗暴事犯であり、少年自身も成人共犯者らに同調し被害者に威圧的態度をとつていること、少年の性格は、内省力が未熟で向上意欲に乏しく自己統制力が不良であること、保護者はこれまで少年に対し放任的であり、監護指導を適切に行つていなかつたことが認められ、これらの事実に照らすと、少年の要保護性は比較的高いことは否定できない。

しかしながら、本件恐喝非行は、成人共犯者であるB(当時四〇歳)が率先主導し、少年はこれに追従加担したにすぎないこと、少年は、前記の有機溶剤吸入により一回補導された以外に非行歴がないこと、本件で逮捕勾留され、さらに観護措置により身柄を拘束されたことを契機に過去の生活態度を反省し、暴力団との関係を断ち、保護者のもとに帰つて定職につき、堅実な生活をする旨誓つていること、他方、保護者は、居住地区の少年補導員の援助を得て、夕張市内に少年の就職先を確保し、再非行防止のため今後少年に対する監護指導を強化する旨誓つていること、少年と両親との間には良好な親子関係が持続しており、少年は暴力団に加入後日は浅く、しかも当該暴力団は遠隔の地にあつてそこからの脱退は比較的容易と認められ、その他少年及び保護者双方の右各決意の実行を妨げるような不安材料はないこと、少年は未だ試験観察や保護観察を受けた経験がないことなどの諸事情を総合勘案すると、少年に対しては、両親及び専門家の指導のもとに社会生活の中で更生の道を歩ませることが、その健全な保護育成を図るうえで相当と認められるのであつて、少年を中等少年院に送致する旨言い渡した原決定の処分は著しく重いといわざるを得ない。論旨は理由がある。

よつて、本件抗告は理由があるから、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により原決定を取り消し、事件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 渡部保夫 裁判官 田中宏 仲宗根一郎)

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